回復したい日々

いろいろ書いてます

セントエルモ

 

お別れをした。

身内が死んだとか、何年も親しくしてくれた友達と絶縁したとかではなく、お付き合いしていた女性とお別れをした。ようは破局である。コロナウイルスが猛威を振るい始める少し前に関係が始まり、そしてコロナウイルスが三度この星を襲い始めている最中に関係は終わった。一年にもわずかに満たないほどだが、その間の彼女という存在は閉塞感と孤独を同時に運んでくる現代における心のオアシスだったのだ。しかしながら、コロナウイルスという天災に巻き込まれ、水はどうやら涸れてしまったらしい。


 男子校出身の僕にとって、彼女は僕が始めて親しい仲になった女性である。LINEでは饒舌だが実際に会うと口下手で、褒められることに慣れておらず黙り込んでしまう、コスメとケンタッキーを何より愛していた彼女は、白いワンピースが似合わないとよく口にしていた。かわいいと思うけどな、よく考えもせずに言った僕の言葉にしらっとした目線を浴びせながら、そうやってすぐテキトー言うなとふてくされる。お詫びのつもりで買ったクレープを頬張り笑顔を見せる彼女に対して、やっぱり僕はまたかわいいと言って怒らせてしまうのだ。

 

 恋愛小説然とした懐古はそのくらいにしておくが、これでいかに僕が未練たらたらなのかがおわかりいただけたと思う。それだけに、LINE上でも口数が減っていく彼女を認識したときは、胸中穏やかではなかったし、眠れない夜も数知れず、バイトに徹夜で臨んだほどだった。また、彼女の気を引こうとプレゼントを贈ったり、理由をつけては会おうともしたが、すべては後の祭りだった。辛抱たまらなくなり、もう別れたいのかという問いかけに対する彼女の返答は「どっちでもいいよ」のひとことだった。
 その後は驚くほどあっさりとお別れまで進み、恋愛というしがらみがなくなった彼女は晴れやかな表情で今後もよろしくねとうれしそうに言っている。かたや心中曇り空を通り越して大シケな僕はおそらく引きつった笑みを浮かべながら、死にそうな声でよろしくねと言っていた。白いワンピースの時よりも遙かにテキトーなその返事に、彼女は満足そうに頷いている。こっちの気持ちも考えろよ、という相手の気持ちを考慮していない言葉を出す勇気は僕にはなかった。

 

 正直、腫れた惚れた振った振られたという出来事を言語化するほどナンセンスなことはないし、なにより恥ずかしすぎて嫌だったのだが、僕の机から出てきた未開封のコンドームが発見され、いても立ってもいられなくなってしまった。写真、LINEの履歴、プレゼントの入れ物、プラスチックのハートの飾り。なにからなにまで彼女に関わる物は捨てたものの、真っ黒なパッケージにつつまれたそれだけはどうしても捨てることができない。唇を戦慄かせながら、もといたところへ戻した。いつかきっと傷が癒えたら君に教えてあげよう。そしてしっかりと言ってあげるのだ。やっぱり白は似合わないねと。

 

 

 

 …なんだかオチを決めすぎていて気持ち悪いから付け足しておくと、彼女に告白された日、僕は嬉しさのあまりに漏らした。大か小かの言及は避けるが、人の感情はままならないなと、臀部を拭きながら思った。