回復したい日々

いろいろ書いてます

正解不正解

 

お風呂上がりのドライヤー。いつものように自分の癖毛を温風になびかせていると、いつもより髪の毛が反抗心をみせる。たいてい僕の髪型は一種類しかなく、前髪を右もしくは左に流すというものである。しかしその日は、前髪がちょうど6:4くらいの割合で左右にぱっかりと分かれてしまっていた。齢二十にして若干のシワが健在である僕のおでこが、恥じらいを見せる乙女のように控えめに髪という衣を脱がされている。いつもと違う髪型に僕は順応できず、どこか気恥ずかしい思いで夜も眠れなかった。

 

目を覚まし、寝癖を整えても、やはり前髪は昨日と寸分違わぬところで分けられてしまう。時間のない朝に前髪にかけられる時間など、男の僕には存在しない。諦めて分け目を6:4にして整え、オシャレ初心者のようなおでこ出しヘアスタイルで外出する運びとなった。いつもとは違うスタートの1日。頭の中はいつもと違う前髪のことが必ずよぎってしまい、なにをするにつけても分け目が先に来てしまう。「今日は前髪がいつもと違うけれど、身体のだるさはいつも通りだな」、「今日は前髪がいつもと違うのと同じように、バイトの仕事もいつもしないようなミスをしてしまった」などなど。分け目が違うこと、ひいてはいつもと違うことは人間にとって不利益な事象なのである。

 

こうなってしまってはもう髪を切った方が早いと考えた僕は、さっそくいつも髪を切ってもらう店に予約を入れる。その日がやってきて、分け目がいつもと違うんですよと相談をした。僕の髪を切ってくれる彼女は僕の言いたいことを理解してくれたようで、さっそく髪の毛を切り始める。ここまで汲み取ってくれるなんて、髪を切る人はマジシャンのようである。僕が「なんとなくイイ感じで」などとサイアクな感じのオーダーをしたとしても、最高にイイ感じの髪型に仕上げてくれるのだ。そんなマジシャンにかかれば、前髪の調子を取り戻すことなど雑作もないのだろう。

彼女は自身のマジカルなマジックを遺憾なく発揮し、僕の前髪をセンター分けにすることに成功していた。違う、そうじゃない。心の中で泣きながら、マジック代金4200円を支払った。