回復したい日々

いろいろ書いてます

水も滴る男の勲章

今週のお題「わたしの部屋」

 

わたしの部屋はもともと父の部屋だ。未だにクローゼットの中には父のスーツなどがしまってあり、わずかながらその息を残している。久しぶりに、そのクローゼットを開いた。

 

父は騒がしい人だ。歌うのが好きだが、けして上手とは言えず、いつもがなるように流行りの歌を歌っては母にうるさいと怒られている。

父のうるささは家だけにとどまらない。外に出れば大きな声で喋り、笑う。他人に聞こえることなどお構いなく、最近の話や面白かったことを口にする。父以外の家族はみんな父を睨み、もっと静かにしてと言うのがお決まりである。もっとも、それで済むことはほとんどないが。

 

わたしはそんな騒がしく、もっと言えばやかましい父があまり好きではなかった。喧嘩をしたことなどしょっちゅうだ。しかし、父が家にいなくなると、家は穏やかだが、いつもより寂しい時間が流れるようになったのを肌で感じた。もうほとんど使われなくなりクローゼットに押し込められた父の服。ほのかに香る独特の匂いは、わたしの部屋からほとんど失われた父という存在を守っているように思われた。やはり父は紛れもなくわたしの部屋にいた家族であり、わたしたち家族に父は欠けてはならないひとりなのだとわかった。

 

わたしは部屋のクローゼットを閉めた。そしてLINEを立ち上げ、久しぶりに父にメッセージを送った。どうかこれが、わたしと父の絆を深くする第一歩となりますように。

『キ○タマの手術、順調?』

タマには、水が溜まっていた。