回復したい日々

いろいろ書いてます

コンタクト買って付けて帰る話

※これは2019年8月31日の出来事です。

 

冷夏だなんだと騒がれた夏の終わりに、人々の中傷を黙らせるかのような暑い日のこと。僕の視界は不明瞭な世界を鮮明に映していた。

幸せそうに歩くのっぺらぼう達は、口々に暑いのなんのと言い交わしては僕の世界から姿を消していく。見えないものを見ようと、なんて矛盾めいたことはしないけれど、そこには確かにいくつもの声が在った。

そんな声にろくに返事もせず、人でごった返す大型ショッピングモールへと足を踏み入れた。目的地までのわずかな足踏みを一歩一歩噛み締めて、歩く。今日歩んだ道と同じ道を歩めるかどうかの保証なんてないのだから。

 

検診を終え、買い物を済ませる。行きとはうって変わって世界は鮮明に映し出されていた。

自宅の最寄駅から2分ほど電車に揺られて辿り着くこのショッピングモール。普段は歩くことを億劫に感じて帰りも電車に揺られるのだが…折角の視界の明瞭さにあてられ、歩いて帰ることにした。もう一度言うが、季節は夏である。わずか2分ほどで、額から汗が流れ始めた。

 

歩いて帰るのはだいたい夜なのだが、今はまだ明るい時間帯だ。そうなると、普段は闇に包まれ静謐な雰囲気を漂わせる街が、活気に溢れた明るい街に姿を変える。ここまで真反対な態度を取る世界に、もしやこの世界は誰かに操られたゲームの世界なのではないか、などといった愚にもつかない思考に頭を支配された。暑さが脳内に侵され、犯されているのだろうか?その答えは、ゲームプレイヤーしか知り得ないだろうが。

 

しばらく歩いていると、旧友の家の近くを通りかかった。彼とは小学校が同じで、6年間クラスが一緒だった。こそばゆい表現だが、親友と言って差し支えない間柄であったのである。しかし、そんな彼とも中学生にもなればほぼ会うことはなくなり、携帯で連絡を取ることもほぼなくなった。世界が明瞭になることは、良いことだけであるとは一概に言えないようだ。彼の家に通ずる路地裏にそんな思いを馳せつつ、僕は過去を振り切った。

 

 

そうしてしばし…。僕は家に着き、鏡の前に立つ。相変わらず愛着はあるものの不出来な顔面を見つめ、やがて眼に手を伸ばす。付着していた両眼のコンタクトレンズを外すと、僕の視界は鮮明に不明瞭な世界を映し出していた。